都会のヒトは、ヒトが作ったものの中で一年中暮らしている。
田舎のヒトも、都会のヒトより少しはましだけど、それでもほとんどテレビやスマホやゲームにかじりついて、いち日を過ごすらしい。せっかくヒトが作ったものじゃない自然のものがいっぱいあるのに。
これって、大きなニンゲン型の着ぐるみに入って、内側からその着ぐるみを見てるみたいなものじゃないのかな。着ぐるみを着ると、なんだかとても強くなったような気になったり、ハダカじゃできないような仕事ができたりするから、それはそれで便利だな、とは思うよ。けれど、ペンギンに置き換えて考えてごらんよ。
ボクがペンギンの着ぐるみを着ていたとしよう。
で、それを脱がせたら、その中からまた着ぐるみが出てきて、その中もまた…
ってなったら、「イワトフどこ行った〜」ってことになるよね。
ボク行方不明事件。
以前も水族館から冒険逃避した時に捜索されたけど、ペンギン着ぐるみの中で行方不明になるって、ちょっとシュールだよね。だって、そこにいるのに、見えなくなっちゃうんだから。
外からボクが見えなければ、ボクからだって外は見えない。
人間もまた同じこと。
着ぐるみの中だけ見てたら、そとの世界が見えないのに、その着ぐるみの中だけが世界だって思ってるから、きっともう平気になっちゃってるんだね。
それで何か不都合があるかって?
そりゃぁあるに決まってる。
だって、人間が作ったものは人間の知恵を超えられないけれど、自然にはまだまだ不思議がいっぱい、知恵一杯。そうでなくても、意外なヒントや行き詰まった時の突破口がひょっこり現れるかもしれないじゃない。
お〜い、出てこいニンゲン!
ペンギンの世界でも時々「ブーム」っていうのがあって、ちょっと前には伝令ペンギンがはやったね。人の、いや他のペンギンの噂話を勝手にしゃべってくれたり、誰かがボクにご指名で伝えたいことがあったら、自分でやってこなくても伝令ペンギンに伝えたいことを言えば、速攻全速力で走って、伝えに来てくれる。10羽に拡散して、って言えば、それなりに頑張ってくれる。あんまり多いとだんだん手抜きになって、肝心なことを伝え忘れちゃったりするのがクセモノだけど、まぁ便利には違いない。
大声ペンギンっていうのもいて、イカをちょっと多めにあげれば群れじゅうに聞こえるひときわ大きな声で、伝言をがなってくれるんだ。これは、聞きたくなくても耳に入ってくるからちょっと迷惑だけど、だんだんその声を聞かないと「あれっ?」って思うようになるんだ。で、ついつい自分に関係ないことまで聞き耳たてて聞いちゃって、気がついたらエサを捕りに行くのにベストの時間をうっかり忘れちゃったりすることもある。
まぁ、こんな感じで「モノ」こそ何にもないけれど、ペンギンの世界でもサービス業っていうのはけっこう繁盛してるよ。
見たことも聞いたこともない珍しい話にボクは興味しんしんだから、ついこんなのを聞いていて時間があっという間に経っちゃうことも少なくなかったよ。
こんなボクを見て、ある日エレノワが強烈な命令を下したね。
「伝令、宣伝ペンギン、歌舞音曲ペンギンを見たり聞いたりすることを禁止する」
「あーーー、ソコきたか!」とボクは思ったけど、黙って素直にやってみた。
いつもただ受身で見たり聞いたりしていた時間がスポっとなくなると時間が余っちゃうから、仕方なく長老のお話を聞きに行ったり、伝令聞くのはダメだけど、誰かに直接話を聞きに行ったり、何かを見に行ったりはOKだから、「新しいペンギンの生活スタイル展」とかを見に行ったりしたね。
「ペンギン詩集」を読んだりね。
さて、問題は着ぐるみニンゲンだよ。
エレノワの視聴禁止をニンゲンに当てはめるならさしずめ、
「電気・水道・ガス・電波の無いところで過ごす」
ってところかな。
アウトドアとか山登りとかで自然に親しんでもスマホ持参でゲームしてたんじゃ意味無いよ。
ぜ〜んぶ無しの日をつくって、どういうことになるかまずはやってごらん。
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