雪と石ころで遊ぶ

投稿者: | 2016年9月28日

外で雲と遊ぶのはボクの物語り練習。
おなじ外で遊ぶのでも、雪や石ころならボクが自分で増やしたり減らしたり、動かしたりできるから、つい熱中しちゃう。

ボクの遊び場にあるのは石ころ、動物のホネ、干からびた海藻、仲間たちやほかの鳥が落としていった羽くらい。
あとは冬なら雪や氷はいくらでも。

最初ボクは石ころを何個か持ってきて、ボクの歩幅のちょうど3倍ずつのところに並べて、それを目印に行ったり来たりして遊んでた。
今日のボク、明日のボク、お日さまがくるくる何回か昇ったり沈んだりしたあとのボク、えーとそれから先は数えられないから今度の冬が来た時のボク、今度の夏が来た時のボク…

今度の夏が来たらボクは「おとな」になる。そう、自分で風向きや海の潮の流れを見極めて、今日のごちそうの匂いをかぎわけて、潜水して獲物を自由自在につかまえられるようになる。そのためには、まず泳ぎが上手にならなくちゃいけないから、最初の石ころは遠くまでボクだけで泳げるようになった時のしるし。次は息を止めてしっかり潜る。次、深く潜る。次、イカを見つけたらそれボクの目の中で止まって見える。次、イカと一つになって泳ぐ。その時々の海の中の音や、海の上の風が吹き抜ける勢い、空の鳥たちの声、そして自分のフリッパーが水を切る抵抗を感じながら…
何回も、くるくる。くるくる。繰り返してイメージしたら、だんだんできる気がしてくる。

そんなことをしていたボクをいつの間にかエレノワがじっと見て一言、

「雪や氷も使って遊ぶ」

そうか、石ころは並べる場所は変えられるけど、形は変わらない。それに比べると、雪や氷ならボクにもくちばしでつついたり、足で転がしたりして自由に形が変えられるんだ。ついでに海藻も拾ってきてお化粧をしよう。仲間や鳥たちの羽も拾ってきて… こちらは風で飛ばされないように石ころで重しをして、と。

おもしろい。

つい時間を忘れて遊んじゃった。
なにができるだろう、こんなふうにしたら楽しいな、なんてね。
べつに、それで何を作ろうって考えたわけじゃないんだ。
ただ、どんなふうにできるかなって。

で、気がついたらボクの物語ができちゃった。
「ボク設計図」。

エレノワや長老からいろんなことを教わって、
ニンゲンが乗ってるみたいな大きな船に乗って海に出て獲物をさがす。
イカでもオキアミでも食べ放題の秘密の場所を見つけたボク。
そのど真ん中の氷山に登って「ドヤ顔」のボク。
もう、これで満足…
って思った途端に、もっと沖に海鳥がまるく輪を描いて低く飛んでる場所が見えちゃった。
もう、ニンゲンの船はいらない。
自分のフリッパーだけで、まっしぐらに海鳥たちが垂直降下して海に飛び込んではエサを獲っている場所の真下めがけてずんずんと泳いでいく。
ボクは海鳥と一緒に空を飛んでいる。
ボクは自由。

とっても不思議な気持ちだった。
ボクはどうなるんだろう、って思いながらただ石ころや海藻や雪で何ができるか遊んでたら、いつの間にか「設計図」ができちゃってた。しかも、「なりたい自分」になった、その後まで見える、とても不思議な設計図。

人間が暮らしているところとくらべると、ボクたちのまわりには石ころが少ないから、石ころはとても大切なもの。
巣作りのシーズンには取り合いになることもしょっちゅうだよ。だから、こうやって作った「ボクの設計図」も、明日にはもう今日のままではいない。石を乗せた羽も、海藻も、ちょっと強い風が吹けば全部飛んでってしまう。雪や氷も、新しく降った雪に埋まって見えなくなっちゃう。そしたら、また作り直し。でもおんなじ「設計図」は二度とできない。今日のボクは昨日のボクとは違うから。
そうだ、設計図は心の中に「保存」して、いつでもどこでも思い浮かべられるようにしよう、そうすればいくらでも好きなように作り変えられる。石ころの取り合いの心配もないしね。

ボクの心の中にある「ボク設計図」。
誰にも見せてあげないよ。

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